競馬 予想のコスト削減
待てば、こっちが本気で走りだすころには、ステージハンドは遠く手が届かなくなっているかもしれない。
Wは心を決めた。
シービスケットの鼻を馬群のすき間に向け、抜けるように指示したのだ。
反応は強烈だった。
ずっと馬群のあとを追わされていたシービスケットは、銃身から撃ち出された弾丸のように突っこんだ。
Wはバランスをとりながら、たくみに密集する馬のあいだを走り抜け、白いキャップを追い求めた。
すき間はあまりに狭く、スピードはあまりにも速かったため、Wは馬たちの後脚に走りこむことのないよう、鋭く左右に切りこまなければならなかった。
シービスケットが1200のポールを駆け抜けた時、数人の計測員がこの事態に気づき、あわててストップウォッチのスイッチを押した。
実況席では、Mの目がこの馬をとらえた。
「シービスケットです!シービスケット抜け出しました!つむじ風のように追いあげています!」Wは白いキャップの横に並んだ。
ジョッキーの顔を見ている暇はなかった。
シービスケットはあまりにも速く、白いキャップも一瞬で後方に消えてしまった。
シービスケットは馬群を追い越し、先頭を走る最後の障害、アネロイドに向かって身体を伸ばした。
2頭は横並びで走り、恐ろしいスピードを保ったまま、残り400のポールにさしかかった。
計測員はストップウォッチにかけた親指を力いっぱい押した。
過酷な長距離レースの中盤で、シービスケットは800メートルの世界記録を2秒も更新していた。
この2秒は13馬身以上に相当する。
おそらく前代未聞の猛スピードだった。
3コーナーを回ったところで、シービスケットはトップに躍り出た。
観客は総立ちだった。
Wはもてる技術のすべてを駆使し、それが功を奏したかに見えた。
馬群は彼の背後で乱れ、揺れ動く固まりとなって後退した。
その時、Wは大外からなにかが来るのを感じた。
鞍上でふり返ると、馬群から解き放たれた一頭が、去年のRのように、シービスケットに迫っていた。
Wは馬先へ行くほどの顔を見て、はっとした。
知っている顔だった。
マホガニー色の貴族的な長い鼻は、黒ずんでいる.だが騎手のキャップが違っていた。
きっと見まちがいだろう。
彼は大きくふり向き、もう一度確かめた。
まちがいない。
ステージハンドだ。
真相を悟ったWの全身に身震いが走った。
ステージハンドとシーンシフターのキャップが取り換えられていたのだ。
レースの開始以来、Wがずっと追いつづけていたステージハンドは、実のところ、後方でじっと息をひそめていたのだ。
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